updated on 2008.07.11

日本ITガバナンス協会


2008.7.11第1回 Opnion by KPMGビジネスアシュアランス株式会社

情報システム部長のための、ITガバナンス構築に向けた非フレームワーク的アプローチ

〜最初の3ステップ〜

ITガバナンス構築の必要性を一番感じている人がいるとすれば、それは、CIO(Chief Information Officer/最高情報責任者)が選任されていない組織の情報システム部長であろう。

ITガバナンスが構築されていない組織では、情報システム部長がシステム投資の計画を作るたびに、「その投資がビジネスにもたらす効果は何なのか」「投資対効果はどうなっているのか」といったことを経営側から問い詰められる一方で、IT戦略を実現する上で十分な権限と責任が付与されているとは言い難い。

ITに係る経営者やその他の社内利害関係者の責任が明確化され、意思決定の手順が整備されていれば、こんな苦労をせずに済むのに、そう考える機会が多いに違いない。

「CIO Magazine IT投資動向調査2008」によると、兼任を含めてCIOを選任している日本企業の割合は4割程度であり、ここ数年はこの割合に大きな変動がないとのことである。 この調査におけるCIOの定義は、「企業において情報システムの統括を含むIT戦略の立案、執行を主たる任務とする役員」とある。

では、「CIOを設置している」ことと「設置していない」ことでは何が異なるのか。ITGIが公開しているCOBIT4.1日本語版では次のような記述がある。

「ITガバナンスは、経営陣および取締役会が担うべき責務であり、ITが組織の戦略と組織の目標を支え、あるいは強化することを保証する、リーダシップの確立や、組織構造とプロセスの構築である。」

日本型の組織においてCIOの設置はなじまないのではないかという議論も有るが、CIOに相当する責任を持つ職位を設置せずにITガバナンスの構築を成し遂げるのは困難である。そして、そのしわ寄せは情報システム部長に向かうこととなる。

そこで、今はまだCIOではなく、自身の権限の範囲内で実行できることは限られるものの、ITガバナンス構築に意欲がある、そんな情報システム部長にぜひ実行してほしい3つのステップを以下に紹介する。

ステップ1:IT投資に関連する議論の歴史を整理する

IT投資に後ろ向きの経営者は、IT投資戦略の承認を得る上で高いハードルである。そのハードルを乗り越えるための準備として、これまでの歴史において、IT投資に関してどのような論点が存在し、どのように語られてきたかを整理すると良い。

特に、IT投資反対派のバイブルといえる論文が、2003年に発表された「IT doesn't matter」(Nicholas G. Carr)である。元々Harvard Business Reviewに掲載されたものであるが、邦訳が出版されたこともあってか、ITのことをよく知らない方でもこの論文のことは知っている、ということが多い。

このほかにも、IT投資が企業業績にどう影響を与えるのか(あるいは、与えないのか)といった点についは、過去にさまざまに議論がなされている。その整理にちょうど良い資料を経済産業省が公開している。

「CIOの機能と実践に関するベストプラクティス懇談会報告書」

である。この報告書は2005年に公開されたものであるが、今でも十分に役立つ内容である。IT投資に関する議論の歴史を振り返る意味では、特に「補論T IT投資と生産性を巡る議論」や「補論U IT 投資と競争力強化に関する個別分析」がお勧めである(尚、KPMGはこの報告書の編纂に参画していない)。

ステップ2:社内人脈の強化

情報システムに携わる人の中には、他人を説得するとき、理詰めになりやすい人が多い。しかし、そうではない人にとっては「理論的裏づけ」や「数字」だけでは通用しないことがある。そんなときでも、説得しようとする相手との間に信頼関係が構築されていれば、それは大きな力となる。

また、CIOは事業部門のニーズをタイムリーにシステムで実現することが求められるが、そのためには具体的なニーズになる前の潜在的要望を如何に捉え、先回りして準備(IT投資)をしておけるかが腕の見せ所である。それができなければ、要件を実現するためのシステムの手当てをするだけで時間を(場合によっては数年単位で)要してしまい、ビジネス機会を損ないかねない。さらに、ITガバナンスを構築する際には経営者ら利害関係者の役割や責任の棚卸しが必要になるが、その際にも、普段からの交流があると無いとでは大違いである。

そういった、信頼関係構築及び情報収集のための人的ネットワークを、情報システム部長はどのようにして築けばよいか。

おすすめは、各業務の担当役員や部長と定期的に昼食を共にすることである。ポイントは、二人だけで会うこと。アポイントメントを取るにしても、できれば秘書を介さずに申し込んで親密さをアピールするのがよい。

役員/部長と月に一度は顔を合わせて、非公式な情報交換のルートを維持しておくこと。相手の所管する部署の話題だけにこだわる必要は無い。「あの人とはいろいろなしがらみがあって、いまさら一対一で昼食なんてできない」と考えてしまう相手が思い浮かぶ場合には、なおさら対応を検討したほうが良い。

いずれにしても事業部門は「情報システム部門の大切なお客様」あるいは「バリューチェーンを構成する大事な後工程」であるというスタンスを忘れずに、彼らが何を考えているかを常にウォッチすることが大事である。

ステップ3:説明資料は分かりやすく作成する

ITガバナンスのしくみは作っているものの、どうもうまく回っていない、という声を聞くことがある。その原因の一つとして、経営者や利害関係者が、都度提示される資料の論点を十分に理解できずにいるケースが有ると考えられる。その場合、IT用語と数字の羅列からリアルにシステムの現状や戦略をイメージできない経営者たちのために、分かりやすい資料を作成することが鍵となる。企業経営を飛行機の操縦にたとえるならば、飛行機(自社)の状況や気象状況(顧客や競合などの外部環境)に関する情報が分かりやすく配置されていることは、安全な飛行コースを取る(効果的に事業貢献を実現する)ための判断をするうえで重要である。

 分かりやすい資料を作成するポイントをいくつか挙げる:

・資料を作成する前に、経営判断してほしいポイントを明確にする

・経営判断に必要な情報をリストアップし、それらの関係を整理する

・説明のストーリーを考える

・極力、業務側の用語を用いる

私はこれまでさまざまな案件を通して数多くのCIOレベルの方々とお会いしてきたが、ITの事業貢献を高めることに成功しているCIOは例外なく説明上手であり、資料作りもうまい。参考書を求める場合には、PowerPointの使い方関連のものよりも、論理的思考関連のものがお勧めである。

以上が、情報システム部長にお勧めする最初の3ステップである。

最後に

このところ、「いまや経営とITは一体である」という趣旨の言葉を眼にする機会が多くなった。事業部門からの情報システム部門への期待も高まっている。

そんな中で、ITガバナンスを構築することはITによる事業貢献を高める上で重要であり、ITGIが公開しているCOBITなどの資料はその際の大変有効な参考資料である。 そういったフレームワークに加えて、本稿で記したような部分(スキル、あるいはコンピテンシーと呼ばれるもの)にも目を向ける余裕があれば、ITガバナンスをますます強固なものに磨き上げることができるであろう。

通常は、こういった部分は「個性に属することは一般化することができない」といった理由によりフレームワークに組み込まれることがない。KPMGではITガバナンス構築支援を提供しているが、このような観点でのアドバイスは報告書等に記載されるものではない。

そのような背景を踏まえ、本稿ではITガバナンスが構築されていない組織において情報システム部長が取り組むことによって、将来的にITガバナンス構築につなげられるであろう最初の3ステップを提案した。

いずれも過去に私がお会いしたCIOの方々が実践されていたことである。これらは、あくまでも最初に始められるステップでしかない。が、明日からすぐにでも実行できるものである。ぜひご検討いただきたい。


KPMGビジネスアシュアランス株式会社
マネージャー 奥村 優




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